「 わ〜、
 小鳥ちゃんすっごく真剣な顔してるね〜〜。
 執筆中なんだから当たり前か〜。
 麻人、小鳥ちゃんのお仕事の邪魔しちゃ
 ダメだからね!」

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[小鳥] 「世界のマジック集第三巻、ハリー・フーディーニーの
      ページを開いて」

[麻人] 「え、あ、はい」

[小鳥] 「その後は、西欧神話集の第四巻と五巻を取って。
      その後はイギリス産業革命史」

     次々と指示を飛ばす小鳥先生は……
     起きがけの『のぼーん』とした姿とは
     完全な別人になっていた。

[麻人] 「えーっと、世界のマジック……世界の……」

     本棚にきっちり収納されている膨大な数の
     書物から、目的の本を探すのは難しい。
     ましてや、俺はまだこの部屋を把握して
     ないからなおさらだ。

[小鳥] 「2段目、左から24冊目……」

[麻人] 「え? あ、はい! ありました」

     要望のあった資料の本を揃える間に、
     小鳥先生は執筆を開始する。

[麻人] 「(すごいな……やっぱり先生、
      根っからの物書きなんだなぁ……)」

[小鳥] 「ハリー・フーディーニ」

[麻人] 「はい、ちょっとお待ちを……」

     慌てて、目的の頁を探そうとするが、
     なかなかお目当てのぺーに辿り着けない。

[小鳥] 「178頁」

[麻人] 「え? あ、はい。こちらです」

     パララッと頁をめくり、小鳥先生の前に置く。
[麻人]「(すごい。頁まで暗記しているのか……)」

     先生は、本が置かれた瞬間から、
     目を皿のようにして本を黙読していく。
     そしてある程度読み進むと、直ぐに
     原稿に書き込み、次々と完成稿を積みあげていく。
     前に見た推敲の時の姿とは明らかに違う、
     執筆時の姿。
     小鳥先生の小さな身体からとてつもない気迫が
     感じられる。
     傍にいるだけでも、圧倒されそうだ。