[ヒマリ] 「はくはくはくはく」
 どうやら、その点においては大丈夫そうだ。
[ヒマリ] 「実に味わい深いぞ。サツマ芋にこのような食べ方があったとは」
 名前がそのまま残ってることに感動だよ……薩摩、とか絶対に通じないだろうに。
[ヒマリ] 「サツマ芋はスープに入るものだと思い込んでいた。余は、甘すぎてあまり好まぬのだ。フィオは好きだが」
 口の周りに芋が……。
[ヒマリ] 「余はこの食べ方が一番、好みだ。おおいに奨励しよう。これはなんという料理なのだ?」
[暁]「焼き芋」
[ヒマリ] 「ふざけているのか」
[暁] 「落ち葉で火を炊いて、くすぶるくらいになったら芋を放り込んで待つだけ! 焼き芋!!」
[ヒマリ] 「焼き芋ではつまらぬ。ヒマリ焼きとしよう」
[暁] (姫が丸焼きにされてるみたいじゃないか……)
 あと、別に姫が考案してない。
[ヒマリ] 「炭で真っ黒になった芋が出てきた時は手が出かけたが、この黄金色の輝き。バターの香ばしい味わい」
 ……この姿だけ見たら、一国のお姫様にはとても見えないよな。
[ヒマリ] 「何をにやにやしている」
[暁] 「気に入ってくれてよかったと思っただけです!」
 俺も、芋と一緒に失敬してきたバターを塗りたくって、焼き芋を齧る。  舌が「懐かしい」って言ってるみたいだ。
[ヒマリ] 「お前こそ浮かれた顔だ」
 やり返されて苦笑い。
[暁] 「……カレーとか食いたいな」
 そうか、カレーか。今の今まで忘れてた。
[ヒマリ] 「かれーとはなんだ」
[暁] 「当時は当たり前に食べてたのに、どういう材料でできてるのか全然、わからないんです」
[ヒマリ] 「お前が食べたいと言うのだから食べてみたい」
 こんなことになるなら、もうちょっと色んな物を……。
[暁] (無理か……)
 思い出さえ、ちゃんとは持ってこれなかったんだ。
[ヒマリ] 「急に暗い顔をするなっ! 驚くだろう……」
[暁] 「ごめんなさい、色々と気付いちゃって」
[ヒマリ] 「気付く? 何をだ」
[暁] 「俺は大切なことのほとんどを忘れてるんだな、って」
 ……今のはない。  絶対ない。
[ヒマリ] 「今は混乱しているだけだ。いずれ記憶は戻ってくる」
[暁] 「……そうだね」
[ヒマリ] 「必ずだ。それが大切なものであれば、必ず思い出せる。お前はこうして生きているのだからな」
 無理やりにでも微笑んでおく。  なんだか必死だな、って思ったら……嬉しくなって。
[ヒマリ] 「すぐに思い出せるといいな? たとえば家族のことだ。もし、余だったらと思うと耐え難い」
[暁] 「……姫は王様が大好きなんですよね」
[ヒマリ] 「むっ、そ、そのような」
[ヒマリ] 「ンっ」
 ……ほっぺの芋をとってあげながら、俺には妹とかいたのかな? とか思っていた。
[ヒマリ] 「く、口で言えばわかるっ、子供のような扱いをするな……!」
 こんな風に穏やかな優しい時間を、昔の俺は送ってたのかな。